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岡山地方裁判所 昭和30年(行モ)7号 決定

申請人 上田熊繁 外二名

被申請人 賀陽町

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人等の負担とする。

事実

本件申請の趣旨は「昭和三〇年二月一日告示に係る別紙目録記載の昭和三〇年賀陽町条例第二号賀陽町の事務所の位置を定める条例第一条及び同第三号賀陽町役場支所設置条例第二条に係る専決処分の効力を、本案判決あるまでこれを停止する。」との決定を求めるにあり、その申請理由の要旨は、

「昭和三〇年二月一日岡山県旧上房郡上竹荘村、同豊野村、同下竹荘村、同吉川村及び旧吉備郡大和村の五ケ村は合併し、上房郡賀陽町として発足したが、同町議会の臨時議長たる職務執行者仁熊八郎は、右同日付を以て専決処分により別紙記載の如き「昭和三〇年賀陽町条例第二号賀陽町の事務所の位置を定める条例」及び「昭和三〇年賀陽町条例第三号賀陽町役場支所設置条例」を告示公布した。而して同年三月三〇日、賀陽町臨時議会に於て、右専決処分の報告承認を求める議題が上程されるに至つたが、賀陽町議会議員たる申請人等は、右専決処分が民主政治の道義を無視し、而も被申請人町の実情に則せざる点が多々あるを以て町事務所の位置と建設の時期については住民の最も便利且つ妥当なる場所に財源とにらみ合せて公選による町長と議会が慎重に審議して決すべきであるとして異議を述べたため、遂に議員全員の一致を以て審議を保留することに決定したが、会期たる同年四月二日までには右審議はなされず審議未了の侭会期満了し、ここに前記専決処分は失効するに至つたものである。そして賀陽町役場は、昭和三〇年賀陽町条例第四号を以て前記合併当初より同町大字西二七八番地の旧大和村役場に於て町政を執行し、行政上何等不都合はないのに、被申請人町は既に失効せる前記専決処分に基き、賀陽町大字豊野一番の二地に町事務所を建設すべく、多額の予算案を臨時議会に提出し現に審議中であり、もし右予算案が議決されるに至れば、即刻工事請負施行となることは必至であるので、本案判決あるまでに、右事態が生じては仮令本案訴訟(専決処分失効確認請求事件)に勝訴しても、申請人等は償うことのできない損害を蒙るのでこれを避けるため、本申請に及んだ。而して申請人等は左の点から右本案の訴につき確認の利益を有する即ち、(イ)申請人等はいずれも被申請人町の住民であるとともに、同町議会議員であるので議員として議決権あるのは勿論町の行政事務の監査権があり、本件条例につき執行機関が如何なる措置を講じているかを監視する任務を有する。(ロ)町役場は町の行政の中心であつて町役場が本件専決処分どおりの位置に建築された場合は一方に偏し、住民及び議員として多大の不利不便を受けることになる。(ハ)前記予算案を可決執行した場合は多額の町経費を無用に費消し、そのため町財政を困窮せしめ、起債租税等による住民の損害は測るべからざるものがある。」

というにある。(疎明省略)

被申請人代理人の右に対する意見は「申請人等は、本案訴訟として専決処分失効確認の訴を提起し、本件執行停止を求めているが、申請人等は、右本案の訴をなすにつき、具体的な利益を有しないから、右訴は不適法である。殊に所謂民衆訴訟で裁判所の判断を求めることのできるのは、法律に特段の規定がある場合に限られており、専決処分の失効確認を請求するということが如きは、法の認めるところではない。従つてかかる不適法な訴を本案とする本件執行停止の申請は失当である。又昭和三〇年三月三〇日の町議会に右専決処分の報告承認を求める議題が上程されたが、極めて少数の議員が異議を述べたので、今後よく話し合い諒解して円満に事を運ぶために右審議は保留されたのであつて、右会期中に承認決議がなされなかつたとしても、専決処分は失効するものではない。仮に議会で不承認の決議がなされても専決処分の関係者の政治上の責任問題は別として、専決処分そのものの効力に影響はないから、本件申請は却下さるべきものである。」というにある。

理由

よつて按ずるに、行政事件訴訟特例法第一〇条第二項に基き行政処分の執行の停止決定をするには同法第二条の訴が適法に係属することを要するは明らかである。しかして同法第二条にいわゆる「行政庁の処分」とは行政庁から公共団体又は国民に対しなす公法上の行為であつて、これらの者の権利義務につき直接かつ具体的な法律効果を及ぼすものを指称し、行政庁の法律行為であつても公共団体又は国民の権利義務に直接かつ具体的な法律上の影響のないものは特別の規定のない限りいわゆる抗告訴訟の対象とならないものと解するのを相当とする。しかし申請人等が原告として提起し当裁判所に係属している本案訴訟(昭和三〇年(行)第一五号専決処分失効確認請求事件)の請求原因はこれを要約すれば昭和三〇年二月一日岡山県旧上房郡上竹荘村外三ケ村及同県旧吉備郡大和村が合併して被申請人町として発足し、被申請人町長の職務執行者に選定された仁熊八郎は地方自治法第一七九条第一項により専決処分で別紙目録記載の昭和三〇年賀陽町条例第二号及び同年同町条例第三号を定めて公布した、そして同年三月三〇日被申請人町臨時議会において右専決処分は報告されその承認を求められたが、町議会は審議を保留し、その後右会期期間の同年四月二日までに審議されず会期は満了したので、右条例の専決処分は失効(その意味は右専決処分により公布された各条例は失効したとの趣旨と解する)したのでその確認を求めるというのであるが、右各条例の内容は申請人等の権利義務に直接かつ具体的な法律効果を及ぼすものでないことは明らかである。したがつて右専決処分はいわゆる抗告訴訟の対象とならないので本案訴訟は一応不適法な訴といわねばならない。そうすると本件停止の申請は執行停止の要件を欠くことになるので爾余の点につき判断するまでもなく不適法として却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 和田邦康 熊佐義里 村上明雄)

(目録省略)

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